アテネ雑感 ２００４−0８−１４
今年は奇妙に、私が昔住んだ事のある所が話題に上るようである。
5年住んだ韓国はオバサンの間でソナタブームになっているし、2年いた沖縄も音楽、
観光を中心に話題に事欠かない。
それに今またアテネがオリンピックの開幕直前、例によって ＴＶ ではマスコミによる
メダル獲得予想やアテネの紹介が花盛りで,まさに熱い季節を迎えようとしている。
もう20年ばかり昔になるが、アテネには5年住んだ。
夏はアテネが一番華やぐ季節である。今年のオリンピック期間中は市内のホテル不足もあり、ヨットで来ている客も
大勢いる筈で、グリファダからピレウスに至るハーバーには、外国籍の大小のヨットが所せましと係留され、知人、
友人を招いて夜毎パーティを開いている事であろう。
ＴＶ で見るアクロポリスは例年にも増して綺麗にライトアップされ、２５００年昔のギリシャ文明の名残を見せている。
アテネのシンボルであるこのアクロポリスにはいったい何回登ったろうか。人が来る度に一度は案内する所
だけに、真夏の暑い日から、雪の降る冬に傘をさして登ったことまで、何１０回行ったか数える事もできない。
アクロポリスのふもとにあるプラカ地区には、観光客目当ての土産物屋が軒を並べており、いかにもげな古代壺
モドキをはじめ、物珍しいギリシャならではのアレコレを並べて、カモを待ち構えている。
日本人は買い物に際して値切るのは何となくはしたない、と言った思いがあり、つい表示価格で買ってしまい
絶好のカモにされているが、プラカでの買い物は, 重さで値決めがされる金製品を除き、全て徹底的に、時には
相手を怒らせるぐらいに値切らねばならない。2割3割の値引きは当たり前であり、私が行きつけにしていた店の
親父とは、始めから2割引きの値段で交渉がスタートしたものであった。これでも利益が出ているのであれば誠に
アコギな商売と言うべきであろうが、ギリシャでは詐欺であろうと騙されたものであろうと、騙されたほうがバカで騙した
方が正義であると言うのが一般的な考え方で、騙した方が非難されることはまずない。
それでもあるギリシャ人はこう言った。商売の騙しあいでは、10人のギリシャ人は一人の中国人に敵わず、10人の
中国人は一人のインパキ（インド、パキスタン人）に敵わず、10人のインパキは一人のレバノン人に敵わない。
それでもなお１０人のレバノン人が集まっても一人の日本人には敵わないのだ、と。 これは褒め言葉？
個々の日本人はひ弱であっても、国としての日本は世界一の商売上手と思われているのであろう。
ところで、今年の夏はいったい何人の日本人が騙されて帰って来る事だろうか。 
アテネでのオリンピックが決まった時、資金的な問題もさる事ながら、果たしてあの国で
こんな組織立った運営ができるものかどうか心配したものであった。(今もまだ半信半疑である）
国民性としては誠に善人、親切な人が多いが一方ズボラ、無責任であり、個人的な能力は
高いが、個人主義が徹底している為、他と協調して全体として動く行動は極めて不得意である。
個人の権利意識が極端で,一旦利害が絡むと人が変ったように自分の権利を主張する。
欧米では珍しくもないのだろうが、たとえ自分のミスである事がはっきりしていても、ラチもない
屁理屈を並べ立てて謝まろうとはしない。
その点日本人は浪花節精神で、謝れば許して貰える風土であり、簡単早めに謝りすぎる
のかも知れぬが、屁理屈を並べてミスを認めない態度には本当にハラがたつ事が多い。
私の経験した事でこんな事があった。私の客がアテネでは上のクラスのホテルに泊まり、明日朝
出発するから １０：００の checkout 迄に必ず仕上げて貰いたいとワイシャツの洗濯を頼んだ。
しつこいくらいに念を入れて言っておいた筈なのに、翌日の時間には案の定洗濯物が出来上がって
いない。当然こちらは怒るが、悪いのは洗濯屋であり自分はやるべき事はキチンとやった、自分には責任はない、文句言うなら
洗濯屋に言うべきだ、などと開き直って謝る気配も見せない。
結局私の客は洗濯物を受け取れぬままプンプン怒って帰国し、洗濯物は翌日私が受け取って預かったことがあった。
ギリシャ人の大らかさと言うかいい加減さと言うか、こんな事もあった。２０年ぐらい前の話で今はこんな事はないで
あろうが、友人が言うには ＴＶ の時報が局によって違うと言う。
当時アテネでは、国営放送局が２局あり、一つの局がポーンと時報を知らせたすぐ後にチャンネルを他局に回すと、
確かに５−６秒遅れて時報を打っていた。こんなすぐ気がつきそうな事を訂正もせずに放置して放送するなど、
日本では全く考えられない事であろうが、知人のギリシャ人に聞いたら、、何ぼかの時報の遅れでお前は何か不都合
でもあるのかと、逆に怪訝な顔をされた。 自分の損得に直接響かないことはあまり関心がない、と言うことであろうか。
ギリシャで日本の選手が戦う相手は対戦する相手ばかりではなく、あの暑さは勿論の事、時間のルーズさ、エゴイズム
丸出しの無責任さ、市内の交通渋滞、それらによるイライラとの戦いもあろうかと思われる。用心しないと集中力を
乱される事にもなりかねない。
またレストランやデパートでの買い物などでは、面倒でも一度に頼むことは一つに限り、一度に複数の依頼や申し出を
しない事、必ず幾つかは忘れられ、いつまで待っても頼んだものが出て来ず、文句言うと例の調子でイライラさせられる
事になる。
さらに故意か偶然か分からぬが、買い物の釣銭をよく間違える。我々のように一度引き算をやって残額勘定するのでは
なく、落語に出て来る 時そば スタイルの足し算方式で、必ず客が損するように間違えるから、長年の経験から
間違える計算方式が出来上がっているのであろう。
ところで、今年の夏はいったい何人の日本人がハラを立てて帰ってくる事だろうか。
オリンピックはそもそもギリシャ神話に出てくる神々、特に最高神であるゼウスに捧げられる
聖なる祭りであった。
神聖な祭典である為、競技者はスッポンポンで競技をやったと言われ、当然ながら女子は
参加できなかった。
一方、 現在のギリシャでは、グリークオーソドックス（ギリシャ正教）が国民のの９５％を占めて
いると言われる。
では今度のオリンピックを、ギリシャ人はどの神に捧げるつもりなのだろうか。
ギリシャ人が、あれほど信仰した神々を捨て、一神教のキリスト教に改宗したのは何時頃だった
のかはっきりしない。
紀元前５世紀の、ペリクレスによるアテネの全盛期を過ぎた後は、スパルタとの戦争に負けデロス
同盟が崩壊し、新興のローマに飲み込まれて其の属国の一つになった。その後ギリシャが歴史の
主役に登場する事はなく、中世の歴史の闇に姿を消してしまった。
神々は暫くはローマ式に名前を変えて、ローマ中心に一息ついていたようだが、ローマがキリスト教を
国教化すると共に、ギリシャでもこの一神教が一般化していったのであろう。
時の権力に迎合するのは、生きるための一つの知恵だから。
また、ローマ帝国の末期に起こったゴート族他の蛮族の侵入、民族大移動時代から、オスマントルコによる４００年に
わたる支配期間の間に、ギリシャの人種も入れ替わり、今のギリシャ人はギリシャ文明を築いた人々とは人種が違う
のではないか、と言う説もある。
あれだけ生き生きと恋をし、人間の娘を孕ませ戦争を主導した神話の主人公達は、今どこに行ってしまったのかと、
さるギリシャの知人に聞いた事があったが、多分北欧あたりの山奥で、古き佳き昔を偲びながら静かに暮らしている
のではないかと、冷たい返事であった。
ここまで書いたところでついにオリンピック開幕、開会式も無事完了してよかったよかった。
元々芸術的独創性には優れている人達だから、全体的な動きを時間に合わせ統括できるか
どうかがカギであったが、よくあそこまで完成させたものだと感心かつ感激した。
ただ式後のマスゲームで、古代オリンピック競技者に扮した選手が、スッポンポンではなかった
のが唯一気になったが、この調子で最後まで行ってもらいたいものだ。
